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第6章

大人の歯のケアのポイント ・2010年5月14日

 成熟した大人の歯は、コンディションさえよければむし歯にはなりにくいものです。むし歯になりやすい「歯と歯の間」に特に注意してデンタルフロスなどを使って、歯垢を取り除くようにしましょう。また、歯周病は中高年からの歯の病気とは限りません。歯ぐきが腫れたり、痛んだり、歯がグラつくといった自覚症状がでたときには、症状がすすんでいることが多いので、日頃のケアがとても大切です。

◆二十代から四十代の歯のケア
 成熟した大人の歯は、むし歯にはなりにくいといいましたが、章末のコラムで紹介する厚生労働省の歯科疾患実態調査によると、20代で10本以上となったむし歯はその後も増え続け、40代には16本となっています。
 大人になってからむし歯になる原因でいちばん多いのは、治療済みの歯からの再発です。むし歯を治療してプラスチックや金属のつめものをすると、そのわきからむし歯が少しずつ進んで、歯の奥へと入っていくからです。
 歯周病のリスクとなる年齢にはまだ早いと思われがちですが、慢性の歯周病は年齢とともにゆっくりと症状がすすむので、20~40代はすでに進行中ということも考えられます。腫れや痛みなどの自覚症状がなくても歯周病が進行している場合もありますから、定期的に検診を受け、歯石をとってもらうようにしましょう。

◆妊娠中の女性の歯のケア
 妊娠中に多く分泌される女性ホルモン、エストロゲンを好む細菌がいるので、妊娠中は歯肉炎が起きやすくなります(妊娠性歯肉炎)。歯に負担のかかる出産や忙しい育児に備えて、安定期には歯肉や歯の治療をしておきましょう(妊娠中であることを必ず医師に告げてください)。
 ところで、妊娠5~9週には赤ちゃんのアゴの骨の中には乳歯のもとになるものが、妊娠16週には大人の歯である第一大臼歯ができ始めます。妊娠中は、お腹の赤ちゃんの歯が丈夫に育つように、ビタミンAやD、カルシウムをいっぱいとりましょう。

◆中高年の歯のケアのポイント
 親知らずを除いて上下4本ずつ歯を失って、計20本なら自分の力でものをかむことができるという考えから始められたのが「8020運動」(80歳になっても20本以上自分の歯を残そうという運動)。開始から15年ほどたった平成17年の厚生労働省「歯科疾患実態調査」から年齢別・歯が20本以上ある人の割合をまとめたものが左のグラフです。
 これを見ると、40代までは9割の人が20本以上の歯をもっていたのが、65代では5割近くにまで減っています。
 そして、80代では、全体の約2割にまで減ってしまいます。
 では、80歳になるまでに20本の歯を残せる人とそうでない人の差は、どこからでるのでしょうか。これは、何度も申し上げているように、正しいブラッシングでむし歯や歯周病から歯を守ことが大前提ですが、日頃の食習慣、たとえば、カルシウムの多い食事をとる、食事はよくかむなど、当たり前のことのようですが、小さな積み重ねが大きな差となってでるのではないかと思います。

◆老年期の歯のケアのポイント
 前ページの表を別の見方をすると、85歳以上の人が失う歯の数の平均は、なんと約25本ということになります。
 自分の歯が少なくなるということと同様に問題になるのが、かむ力・咀嚼能力の低下です。厚生労働省が咀嚼能力と老化との関係を調べたところ、咀嚼能力の高い人ほど運動能力、視力、聴力がすぐれていることがわかりました。
 さらに咀嚼能力が高いと社会性も高く、周りの人と関わって生活しているという結果も出ています。
 「しっかりかめれば元気に過ごせる」というのは真実なのに、日本では歯の健康についてあまり重要視されていません。
 特別養護老人ホームや在宅で寝たきりになっているお年寄りの歯をきれいにすると、健康になるという効果がでていますが、高齢化のスピードが急激にすすんだため、介護が必要となった高齢者への口腔のケアについては、まだ追いついていないというのが現状です。
★入れ歯を使いたがらない人が多い
 入れ歯はあるのに、入れ歯を使いたがらないお年寄りが多いのは、その入れ歯が合わないからです。総入れ歯の項で述べましたが、歯槽骨は年齢とともに減るので、年をとればとるほど短期間で入れ歯が合わなくなってしまいます。
 入れ歯の使い心地には限界はありますが、使い続けなければいけない場合は、やはりはずして過ごしてはいけません。寝るとき以外はつけて、なるべくかむようにしましょう。
★入れ歯を使うとカンジダ菌が増える
 年をとって免疫力が落ちると、待ってましたとばかりに住み着くのがカビの仲間のカンジダ菌です。入れ歯について繁殖するとヌルヌルして、入れ歯清浄剤だけでは取れません。入れ歯用歯ブラシできれいにすることが必要です。
 高齢者は飲み込む力が弱くなって、嚥下性肺炎を起こしやすくなりますが、口の中に細菌がはびこっていては、感染症のリスクも高くなります。老人施設はもちろん、在宅でも入れ歯をきれいに磨くことが大事です。
 必要な介助を受けながら、できるだけ自分できれいにすることがリハビリの役割も果たします。
★やわらかいものを食べたがる
 咀嚼能力が落ち、おまけに入れ歯が合わずにかむことができなくなると、やわらかいものしか受け付けなるのも当然です。
 入院中の認知症患者と老人ホームに入所している健康な高齢者で、残っている歯の数と脳の萎縮程度、入れ歯の使用状況を調べた調査によると、残っている歯の平均数は、健康な高齢者が約9本、脳血管性認知症で約6本、アルツハイマー型認知症で約3本という結果がでたそうです。アルツハイマー型認知症の高齢者がより多くの歯を失っていることがわかりました。
 また、アルツハイマー病の高齢者では、残っている歯の数が少ないほど脳の萎縮が進んでいること、残っている歯の数が多いほどアルツハイマー病の発症のリスクは少ないこともわかりました。
 さらに、健康な高齢者できちんと入れ歯を使っている人は、認知症の高齢者の2倍。残っている歯の数が少ないことが認知症の原因となったかどうかまでははっきりとはわかりませんが、咀嚼力の低下と認知症になることがまったく無関係ではないことは想像がつきます。
 そのほか咀嚼が脳の血流をよくすることや、全身運動能力を高めることも別の調査結果でわかっています。咀嚼能力を低下させないために1本でも多く歯を残すこと、合う入れ歯を使うことが大切なのです。
 自立歩行のために足腰を鍛えることと同じくらいに、認知症にならないためにはかむ力をもち続けることが重要です。
 「かめないからやわらかいものを食べる」のではなく、「やわらかいものを食べるとかめなくなるから、固いものも食べる」という努力が大事です。
 調理をになう人には大変なことですが、かめないからと流動食ばかりを食べさせるのではなく、かむ力に合わせてだんだんと普通のかたさの調理に進めたり、刻み食から一口大と、大きさも普通食に近づけていくといった調理の工夫も必要です。

親が子どもの歯の健康を守る時期

 乳歯が生えそろい、6歳臼歯といわれる初めての永久歯(第一大臼歯)が生えるまでの幼児期は、よい歯を育てるための環境づくりのスタートの時期です。
 初めての歯が生後5~6か月で生え始め、2歳半頃までに合計20本の乳歯が生えそろいます。本書の冒頭の「はじめに」で、「乳歯のむし歯と永久歯のむし歯の因果関係はない」と述べましたが、もちろんむし歯になってよいことはひとつもありません。幼児から生え変わりの全盛期である小学校低学年ぐらいは、歯の健康を維持するためのブラッシングの仕方、おやつやジユースの与え方、ものをよくかむことを親子でいっしょに学ぶ大切な時期でもあります。
 そこでここでは、歯の生え始めから親知らず(知歯)が生えるまでの生え方の順番を示しながら、その時期に大切にしたい歯の健康のポイントについて述べてみようと思います。

◆1~2歳-歯の生え始めから離乳食完了まで
 生後5~6か月頃に下の前歯が生え始めます。早い子では3か月ぐらいから、遅い子では1歳半と、生え始めの時期にはとても個人差があります。
 まだ自分で歯を磨くこともうがいをすることもできませんから、歯が生えたら、清潔なガーゼを指に巻きつけて口の粘膜が傷つかないように歯をふいてあげましょう。
 上下4本ずつの歯が生えるのは、お誕生前後です。この頃から乳幼児用の歯ブラシで歯を磨いてあげましょう。歯ブラシはブラシの部分が小さめで、しっかり磨ける硬さのものを選びます。赤ちゃんの頭をひざにのせて仰向けに寝かせると、口の中がよく見えるので磨きやすいと思います。赤ちゃん用に柄の短い歯ブラシを持たせるのもいいでしょう。
 ブクブクうがいができるようになったら、離乳食のあとにさせて、口の中をきれいにする習慣をつけるといいですね。歯の成長にはカルシウム、ビタミンが必要となりますから、離乳食でもしっかりとり入れましょう。

◆2歳~就学前-乳歯が生えそろう時期
 乳歯はその後、だんだんと奥歯に向かって生えそろいます。20本すべて生えそろうのが2歳頃。乳歯のすき間はあいているのが普通ですから、歯並びを極端に気にする必要はありません。
 子ども用の歯ブラシで磨かせ、寝る前には仕上げ磨きをしてあげましょう。歯磨きが嫌いになっては困りますから、無理じいしないで、声をかけながら楽しく磨いてあげてください。食事やおやつのあとはブクブクうがいをさせましょう。
 乳歯のむし歯は、子どもに社会性が芽生える3歳頃から一気に増えます。2歳で3割の子に、5歳では9割の子にむし歯があります。親の目が届かないところでおやつやジュースを目にすることが大きな原因です。おやつは時間を決めて、食べ終わったらうがいを、1日1回は歯磨きをするといった生活習慣をつけるのがこの時期とても大切なことです。
 固いものをかむことは、歯にとってだけでなく、脳の血流をよくするためにも重要です。幼児期から少しずつ、小魚や繊維の多い野菜などを食事に取り入れるようにしましょう。
★舌小帯短縮症とは?
 舌の裏側にある帯状の膜を舌小帯といいます。かつてはこれが短いと舌を出そうとしたときにつれて前に出しにくいため、お乳の飲みが悪くなったり、将来発音に影響するといわれ、乳児期に切開していたことがありましたが、すでにお乳の飲みには影響しないことがわかっています。発育や発音に支障がある重症の場合は手術をします。歯並びへの影響としては、永久歯の側切歯が生えても中切歯との間に大きくすき間ある場合は手術を考えます。

◆6歳頃~小学校低学年-生え変わりの最盛期
 初めて生える永久歯は前歯から数えて6番目の第一大臼歯で、6歳臼歯と呼ばれます。場所は乳歯の奥。初めての歯は乳歯が生え変わるのではなく、乳歯の生えていなかったところに生えるのです。
 第一第臼歯は、歯の中でいちばんかむ力が強く、歯のくいしばりにとても重要な歯です。かみ合わせの形が複雑なうえ、生え始めから17~18か月と、生えるまでに時間がかかるので、むし歯になりやすい歯でもあります。また、歯の表面のエナメル質は、生えたときから強いのではなく、1~2年かけてだんだんと強くなっていきます。6歳頃では自分だけでは磨き残しがありますから、フッ素入り歯磨き剤を使って親が仕上げ磨きをしてあげましょう。
★乳歯がなかなか抜けないときには歯科へ
 小学校低学年は次から次に永久歯に生え変わる時期。前歯のない子が目立ちますよね。歯がグラグラしている状態は、もう歯の根がなくなっていますから、食事をしているときなどに抜けてしまうことがほとんどです。グラグラしたままなかなか抜けないときには、無理に引っ張ったり押したりしないで歯科を受診してください。大人の歯はもう歯の下にできていますから、乳歯がじゃまをして永久歯が変なところから出てくるのは困ります。
 自分でしっかり磨けるようになったら、大人と同じ磨き方を教えてあげましょう。もしむし歯を見つけたら、すぐに歯科へ。初期のむし歯は正しい治療で回復が可能です。かかりつけの歯医者さんを見つけられるといいですね。

◆小学校卒業ぐらいまで-大人の歯が完成する時期
 奥歯が次々と生え替わり、小学校を卒業する頃には、乳歯のいちばん奥の歯(第二乳臼歯)が生え替わります。そして、いちばん最初に生えた第一大臼歯のひとつ奥の歯(親知らずを除くといちばん奥の歯)である第二大臼歯が生えて、生え替わりは完了を迎えます。
 第二大臼歯はアゴの奥のほうに生えます。アゴの細い子は特に磨きにくいので、磨き方をよく見てあげましょう。
 学校健診では年に1度、歯の状態をみてくれますが、むし歯を見つけても放置していれば何の意味もありません。また、ごく初期のむし歯を見逃しても痛めば気づくので、むし歯を見つける意味としてはあまり重要ではありません。学校健診は、歯の健康状態を知り、歯のケアを見直すきっかけになるものと考えてほしいと思います。
 歯並びのことも気にかけてみてください。異常があれば、この時期から高校生ぐらいまでに治すのが賢明です。正しい歯並びをしているかをチェックして(4章参照)、異常があれば歯科で相談するようにしましょう。

◆中学・高校生の歯の成長とケア
 成長ホルモンの分泌が多く、親の手を離れて自分で歯の管理をするようになる思春期は、歯肉炎やむし歯になりやすい時期です。あとから歯を失うことになる人は、この時期にむし歯を多くつくっています。いままで気をつけてきたことを継続して、ときどき子どもの口の中をのぞいて見てあげられるといいと思います。
 なかには口の中の状態はきれいなのに、体質的に歯周病になりやすい人がいます。むし歯で歯が痛いという以外にも、冷たいものがしみるとか、グラグラする感じがすると子どもが訴えた場合は、歯科を受診させてください。
★親知らずについて
 「親知らず」は、無くてもかむ機能に支障はないので、異常なところに異常な状態で出てきているとわかったら抜いてしまいます。異常なところに生えるのは、現代人はアゴが細くなって、本来生えるスペースがなくなったためです。また、隣の歯に向かって斜めに生えると、くっつき合ったところに汚れがたまって歯周病になる可能性が高くなり、両方の歯を抜かなければならなくなることもあります。